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恋愛が絡むSFは面白い。「時の娘 ロマンティック時間SF傑作集」の感想

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ぼくは、中短篇こそSFの華だと思ってる。
そんななかで、数少ないSFアンソロジー「時の娘 ロマンティックSF傑作集」は、 とても良いものだと思う。 

 

時の娘 ロマンティック時間SF傑作選 (創元SF文庫)

時の娘 ロマンティック時間SF傑作選 (創元SF文庫)

この作品集は、たんぽぽ娘で有名なロバート・F・ヤングの作品が含まれているということで手に取る人が多いようだ。
正直、その他の作家はあまり知名度がないと言っても差支えがない。50〜70年代に発表され、埋もれていた作品たちだ。
しかし。どの作品も一本芯の通った骨のあるものばかりで、知名度と面白さは必ずしも一致しないのだと感じさせられる。そして、古い作品が多いのだが、古臭さはまったく感じられない。60年代を舞台にした、現代の新作と言われても納得してしまう。
 
ただ、ひとつ難点を挙げるとするならば、技巧的ですこし解釈に難儀する作品もある点か。
ただ、それはそれで面白いし、ぜんぶがロマンチックな恋愛SFだと、甘くて胸やけしてしまうかもしれない。

アンソロジーとして

なかなかSFアンソロジーは少ない気がする。特に、50年代から70年代の古い作品を扱ったものは、あまり見かけない。そのなかで、この本は貴重な存在である。
また、驚くほど豪勢な本でもある。
2010年に亡くなられた、浅倉久志氏が新訳を起こしなおしていたり(2009年発売の本だから、おそらく最晩年の作品だ)、初邦訳だったり。ここでしか読めない作品、というのが詰まっていて、編者の愛を感じる。
 

気に入った作品たち

ここからは、気に入った作品に対して、簡単に紹介したいと思う。

ウィリアム・M・リー「チャリティのことづて」

時間、という障害に阻まれた愛の物語。250年もの時をまたいで、少年少女の愛をたしかめあう。
どのように?というのは、ここでは伏せるけれど、現代と過去とのやり取りやギミックも面白いし、本のトップバッターになるのも頷ける。
作者のことは判然とせず、どうやらこの作品だけは忘却を免れていたようだ。
67年に発表され、85年にも映像化もされているそうだ。確かに、それだけの価値はある素晴らしい出来の作品。
ふだん、SFを読まない人にも勧められる逸品だ。

ジャック・フィニィ「台詞指導」

現代のなかに、過去が紛れ込む。あるいは、過去の中に現代が紛れ込む。

これは、素晴らしいノスタルジー作品。65年発表で、今読むと作中の「現代」が、ノスタルジックな過去となっている。入れ子のノスタルジーが、心を掴む。これは、時間の流れが作品に味方した、稀有な作品だとおもう。

精緻に描かれたニューヨークを舞台に、愛に気づく、その描写が、美しい。
これも、普段SFを読まない人にも勧められる作品だが、ハードSFにどっぷり浸かってる人にこそ読んでもらいたい。

ロバート・F・ヤング「時が新しかったころ」

中篇程度の、それなりに量がある作品。これは、ヤングらしい切なさを持った作品で、純愛描写の素晴らしさと、そこにひとさじの驚きを最後に持ってくる手腕には舌をまく。
 
解説にもあるが、ヤングには珍しくアクションシーンが多い。たんぽぽ娘みたいな、切なさ全開純愛作品ではないが、綺麗な作品で印象に残る。
 

最後に

ヤングの「たんぽぽ娘」で、その魅力を知ったロマンチックSF。
なかなか数が少なそうなジャンルではあるけれども、是非みんなにも触れてもらいたいジャンルだ。
 
あと、「時の娘」が気に入ったり、気になったりしたひとは、河出書房の「たんぽぽ娘」も読んでもらいたい。
一時期たんぽぽ娘が絶版で手に入りづらい状態が続き、そんななかビブリア古書堂でも取り上げられて、古書が高騰して数万する時期もあった。
奇想コレクションで発売が延び延びで、三年くらいヤキモキしたのだが(どうやら訳者の伊藤氏が時間かかってしまったようだ)、わたしは待った甲斐があったし、文庫にもなって、安くすぐ読めるいまの人たちが、ちょっと羨ましい。