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「計劃以後」を終わらせる、どんちゃん騒ぎの「屍者たちの帝国」

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劇場版を見終えたのちに見つけて購入した「屍者たちの帝国」。やっと、読み終えたが、こいつは確かにお祭り騒ぎだ。

書き下ろし日本SFコレクション NOVA+:屍者たちの帝国 (河出文庫)

死者の帝国、という作品の特異さ

亡くなった計劃が、病床で「死者が動いている話」を書いていた。そんな、悪い冗談のような作品を、円城塔が書き継ぐ。しかも、その作品は、ほとんどプロットも残されていない。
それは、あらかじめオリジナルが喪われた、二次創作のようなものなのではないだろうか?

本書は、そんな作品に対して、作家達がめいめい自分の好きな話を乗っけ、シェアードワールドものを書いているアンソロジーだ。つまりは、二次創作だ。色とりどりのさまざまな方向性の作品が詰まっており、満足度が高い。

気に入った作品たちについて

特に気に入ったのは、津原尚彦「エリス聞こえるか?」と、宮部みゆき「海神の裔」である。

森鴎外のしんみりとしたラブストーリー、津原尚彦「エリス聞こえるか?」

「エリス聞こえるか?」は、始まりは少々悪ふざけのような軽いノリで始まる。屍者の作曲した曲を演奏した結果、性的な乱痴気騒ぎに発展し、指揮者が裁判を受けることになるシーンからだ。 まことにアホらしい導入なのであるが、森鴎外が主人公となる、屍者という存在を使った切ないラブストーリーに着地する。
舞姫が元ネタとなっているようであるが、僕は当該作を読んでいない。それでも、この作品は訴えてくるものがあった。

しんみりと幕を引いてくれる、宮部みゆき「海神の裔」

「海神の裔」は、シンプルだが、してやられた、と思わされる作品であった。本書のトリを飾る。
内容としてはシンプル、処分されそうな屍者と、それを逃がした人間がある村に流れ着き、神として祀られるようになるまでの物語だ。その物語は、老婆の語りで紡がれ、重さを伴って受けてに伝わってくる。
もし、屍者がいるような世界があったら、こんなふうに人々と関わっていたのだろうか?そんなふうに思わせる説得力で、しんみりとした良い幕引きをしてくれる。

アルジャーノンからカラマーゾフ、次々とオマージュをする、高野文緒「子ねずみと童貞と復活した女」

エンタメとしては高野文緒「子ねずみと童貞と復活した女」が、さまざまな作品のオマージュを「やりたい放題」していて、はじけ飛んでいる。しかし、それでもきちんと筋を追えることができるし、思わず笑ってしまう小ネタがちりばめられており、作品をモノにしている。

有名ファンタジー作品を、一転ブラックに書き換えてしまう、坂永雄一「ジャングルの物語、その他の物語」

坂永雄一「ジャングルの物語、その他の物語」についても触れておきたい。
この作品は、屍者の世界感を巧く用いて、クマのプーさんをブラックなファンタジー作品としてしまうことに成功している。少々、時系列が追いにくい部分も否めないけれど、それでもこの発想力と世界の拡げ方には目を見張るものがある。

まとめ

NoVAがNoVA+になった2作目が、このような形になるのか!という驚きがあったが、どうやら大森氏も予想していなかった模様。お祭りを詰め込んだようなこの本は、確かに作家達に与えた「計劃」という現象の影響の大きさを物語っているように思う。
けれど、自分のなかに取り込んで自分の作品に昇華しまったく違う驚きを作り出す——そんなしたたかさが感じられる作品たちでもあった。

是非、この一冊を読書の楽しい時間のお共としてみてほしい。
ベストSF 2015でも、国内編で9位にランクインしているようである。

僕はなんとなく、この本が「伊藤計劃以後」という、なんともけだるい雰囲気を払拭して終止符を打ってくれたような気がする。例えばそれは、故人を偲ぶ場で、どんちゃん騒ぎで見送るような、そんな雰囲気で。