立て直せ、人生。

人生行き当たりばったりなアラサーが、無事にアラフィフになれるように頑張らないブログ

かつてインターネットはキチガイの巣窟だった 〜2001 Internet Memories〜

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2001年、ITバブルのまっただ中、ぼくはインターネットの世界にこぎ出した。奇しくも中学二年生、人生に一度だけ罹患を許される、中二病という多感な時期と同じだった。

「中学生に入ったらパソコンを買ってあげるからね」という母との約束は父の勝手な退職により反故にされた。父が仕事をするフリに勤しむ姿を背に、母は僕に申し訳無いと頭を下げた。

大丈夫だよとぼくは応える。できる限りの笑顔を母に向けた。無論、嘘だった。けれど、母には心労を掛けたくなかった。季節ごとに家電屋の新型パソコンのカタログを貰ってきていたが、目立たないところに隠していた。でも、きっと母は知っていたのだろう。普段、ラフで何事も笑い飛ばす雑な母が、心の底から申し訳なさそうにぼくに頭を下げていた。

見かねた叔母が、声をかけた。「うちにインターネットあるよ」。当時はダイアルアップで、時間あたりにお金がかかる。だというのに、叔母は好きなだけ使っていいよと声を掛けてくれた。僕は嬉しかった。母はまた頭を下げた。

週に二度、叔母の家に通った。一回1時間半。叔母はもう少し長く居ていいよと言ったけれど、母が断った。

インターネットは、現実世界がもう一つ生まれて拡がりつつあるように感じた。ぼくは色々と下らないことを調べた。犬のこと、猫のこと、木のこと、身体のこと。どれもくだらない検索キーワードだったけれど、そのすべてにおいて、何か的確な答えを返してくれた。ぼくは万能になった気がした。

そのなかで、特に乱暴なサイトが目に留まった。「2ちゃんねる」だ。「うちの兄ちゃん2ちゃんねらーなんだぜ」という友人の言葉が思い出される。ハッカーなどが集まる危険なサイトなのだという。ぼくは逡巡した。けれど好奇心が勝った。カチリという音ののち、2ちゃんねるが表示された。

そこは衝撃の世界だった。何か下手なことを言えば口汚くののしられ、命を絶てと言われる。気の利いたことを言えば、絶賛され語り継がれる。運と実力の微妙なさじ加減の、殺伐とした世界が拡がっていた。

ぼくは2ちゃんねるを静かに眺めた。そして知った。彼らの能力の高さを。当時、たまたま専門板*1に行き着いたぼくは、その余りの話題の高度さに嘆息した。そして、交わしている内容に似つかわしくない汚い言葉遣い。まさに、「技術系キチガイ」という言葉がぴったりの内容が、そこには拡がっていた。

はじめは、恐怖を感じた。得体の知らない世界、それもトップクラスの専門性を持つ人間たちが、これほどまでに下衆なやりとりをするという事実を受け入れられなかった。しかし、時間とともに慣れていった。これが彼らなりのコミュニケーションなのだと理解した。

2001年は、2ch閉鎖騒動の年である。ぼくは幸運にも、あるいは不幸にもその事件の一部を目撃した。普段、お互いに無関心な彼らが、個を示す属性を持たない彼らが、一丸となってその場所を守っていた。ぼくは、その状況を見守っていた。そして、何とか問題を切り抜けたときには、喜びで胸がいっぱいになっていた。そしてそれから十年以上、2chに通うことになる。

それがきっかけかどうかは分からない。ぼくは順調に道を踏み外し続け、結果的に当時みていた専門板「Unix板」の人たちがやっていたことと同じような仕事をしている。当時のログを今読み返すと、理解できることが格段に増え、それでもなお当時の彼らの対応の的確さ、素早さに驚かされるばかりだ。

この業界の一部の界隈では「あたまおかしい」が褒めことばであったりする。つまりキチガイ。それはいい意味だ。今のインターネットは、キチガイだけでなく、色々な一般の人も広く使うようになり、「インフラ」とすら言われるようになった。かつてのおもちゃ扱いが信じられない状況だ。ぼくは、キチガイに憧れてこの業界に入った。

さて昨今、インターネットでは炎上が続く。キチガイは炎上が大好きだ。笑顔で斧を投げ合う*2。炎上結構コケッコウ。何かの行動に対して賛否両論盛り上がるのは、よいことだ。しかし、それが自分の落ち度から広まった、自分が燃える炎上なのだとしたら。それはキチガイではなく、ただのバカだ。

ぼくは、自分が憧れの「キチガイ」になれないことを知っている。なれなくていい。だからせめて、そういう「ただのバカ」と評されてしまうような行動をとらずに済む常識くらいは、身につけたい。そして、みんながインターネットを安心して利用できるような仕組みづくりに携われたらなぁと思っている。

*1:話題を絞った、狭い分野での2chの掲示板を指す

*2:技術者界隈では、モヒカン(その道の専門家)が、間違いなどを強く指摘することを「モヒカンが斧を投げる」と称す。セキュリティ技術者の高木浩光氏などの行いは、はてなでも有名