立て直せ、人生。

人生行き当たりばったりなアラサーが、無事にアラフィフになれるように頑張らないブログ

千羽鶴を折るのが嫌だった

スポンサーリンク

小学生の頃、りんちゃんが入院した。もともと身体が弱く、休みがちな女の子だったけれど、色白で線が細く、背中の中ほどまでおりる髪は、艶やかな黒だった。瞳はおおきく可愛らしい。そんなお人形さんみたいな女の子が、ある日を境に、ぱったりと学校にこなくなった。

「りんちゃんは入院しました」

入院とは病院にずっと入り続けることだと先生は説明した。ぼくは驚いた。入院は歳を取ってから行うことで、一度入ると家には帰れないのだと理解していたからだ。ぼくら子供と入院は、遠く隔てられたものだと考えていた。

「りんちゃんのために、千羽鶴を降りましょう」

ぼくは、その言葉に喜んだ。なぜか。ぼくの唯一の得意技「折り鶴」が、他の子たちの折り鶴を圧倒すると無邪気に信じていたからだ。

千羽鶴を折るために、1人あたりのノルマが課せられた。1人30羽以上。授業の間の5分休み、ご飯の後の昼休み、さまざまな時間の合間に折り鶴を折った。 どうにかしてりんちゃんへアピールをしたかったぼくは、自宅にあったお気に入りの、きれいな和紙製の折り紙を使って折り鶴を作った。ピンと尖った羽先、ぴしりと決まった折り目。我ながら、凛とした雰囲気のツルが折れたと思った。

「おれが一番沢山おったんだ」

いつからか、誰が何羽折ったか?が毎日チェックされるようになっていた。全く折らない斜に構えた子は女子から非難される。大量に折る男子は何枚か紙を重ねて折り目を作って鶴を折り、効率化を求めた。 そうしてつくられた折り鶴たちは羽先が尖っておらず、羽ばたけそうにもなかった。それをみたぼくは、千羽鶴を折るのをやめた。女子から非難されたときだけ、一、ニ羽折って誤魔化した。

「千羽づるは、先生が届けます」

そういった先生の手もとには、千羽以上ある、モコモコのまだら色の統一感のない折り紙の塊があった。

「きっと皆さんの想いが届くから」

その時ぼくは多分届かないだろうな、と思った。千羽鶴ブームは、単に競争がしたいだけの気持ちだったのだ。目立ちたいだけで、りんちゃんへの想いは不在なのだ。でも、それをぼくは非難できない。ぼくだって、目立ちたい一心で和紙でツルを折ったからだ。

「おまえさ、途中から折り鶴おらなくなったじゃん。りんちゃん好きだったんだろ?折らなくてよかったの?」

「……別に?」

友人からの問いかけに、ぼくは何も応えなかった。そして、手に持った紙飛行機を、ベランダから放った。透けるように薄く白く、花模様が入った和紙製だ。

ぶわ、と風が吹いた。紙飛行機は一直線に空を駆け登った。そのまま飛んで行け!ぼくは願った。そして、紙飛行機は願いを届けるかのように高く、高く舞い上がり、どこかへ飛び去っていった。