立て直せ、人生。

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半額刺身を買うサラリーマンにはなりたくなかった

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子供のころ、忌み嫌っていた存在が二つある。ゴキブリと、半額刺身を買うサラリーマンだ。

なぜそこまで嫌うのか?という疑問が今になって浮かぶのであるが、嫌悪感を覚えて仕方なかった。あるいは、ぼくと母が、塾帰り夜食代わりに買おうとしていた刺身を、ニンジャのようにスッスと持っていくその身のこなしが、鮮やかであれど憎たらしくて仕方なかったのかもしれない。

そして、同時にぼくはスーパーの刺身が嫌いであった。プールの匂いが漂うスーパーの刺身売り場は、食欲を退けた。特に、色が赤色から赤茶けた色に変わった半額マグロなどは最悪であった。それだったら、冷凍のマグロを解凍して、多少スカスカになったほうがまだマシだとすらぼくは考えていた。

ナマイキだった。

母は、ぼくのために半額刺身を買った。自分のためにも半額刺身を買った。ぼくを塾から迎えて風呂から上がると、78円の缶チューハイを開け、下らないテレビを付け、他愛もない話をする。ぼくは、寝る前にお腹が空いただのと喚くので、刺身を買って祖母の畑で取れるサニーレタスなどに載せた。しそなどを巻いた。多少、塩素のにおいが誤魔化されて、ぼくでも食べられた。翌日、散らかった机の上を、祖母が「あんたらええ加減片付けなあかんて」とぼやきながら、片付けてくれた。

10年か15年か。時が流れてぼくは酒を飲めるようになって、やっぱり半額刺身を買う。「塩素くさい」「薄っぺらい」「時間経ってる」。一人で食べるときだって、ぶつくさ言うくせに、どうしてか、半額刺身が残っていると、つい買ってしまう。あの、母との週に2回の、父には内緒の会を思い出して。

気づくと、ぼくは母がぼくを産んだ年に差し掛かりつつある。子供好きな母は保育士をやっていて、気の強さ故に園長とよく喧嘩になっていたそうだ。天然パーマと同じように、跳ねっ返りだったんだね、とぼくが笑うと、うるさい、といって刺身を取り上げられた。当時、母がぼくと同い年で保育士として働いていたころも、半額刺身を買って晩酌をしていたのだろうか?と想いを馳せる。そして、今度しばらくぶりに家に帰ったときは、塩素臭くない刺身を食べられるところに、母と祖母とを連れて行ってあげよう、と心に誓う。

塩素くさい半額刺身をハイボールで流し込みながら、あのときのサラリーマンらに反省の意を表して。