立て直せ、人生。

人生行き当たりばったりなアラサーが、無事にアラフィフになれるように頑張らないブログ

雨の日の異世界

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雨の日が好きだ。それはいつもの代わり映えのしない退屈な世界が、まるで異世界のように塗り替えられるからだ。

雨が降ると、つい傘を持ち出して外を歩いてしまう。コンビニの安いビニール傘を取り出し、空に向かって突き出す。それまで雨たちが我が物顔で占拠していた空間を奪う。そして、ぼくはそんな空間に身体を滑り込ませる。そこだけは濡れない空間。ほんの60cm四方ほどの空間はぼくの歩みとともに動き、雨から守ってくれる。そんな小さな異世界。雨の世界という、異世界のなかに現れた傘の下の世界。入れ子構造のなかにぼくは存在する。その非日常感がぼくは好きなのだ。

雨の日、傘の下の異世界に守られながらカフェに行く。カフェに入り、ブレンドコーヒーを頼み、窓際の席に着く。拭きあげられたガラス張りの窓ガラスは、普段はその存在が希薄なのだが、雨の日は趣を異にする。 雨粒があたり、雫が筋を作って流れ去り、あるいは水玉になって踏ん張る。そんな様子が描き出される舞台となる。残った水玉を応援しようと見つめていると、後からやってきた雨つぶがぶつかってきて、先輩雨粒の努力は水の泡となる。

外を見やる。皆めいめい好き好きな傘をさしている。カラフルな色の傘、地味な傘。ぼくは自分の傘を見る。白乳色のコンビニビニール傘であるが、この地味だけれど綺麗な色の傘が気に入っている。全国どこでも誰でも買えるこの傘だが、こいつの魅力を知っているのはぼくぐらいのものだろう。少しの優越感を覚える。

時折、傘をさしていない人もいる。カバンを頭の上にかざし、小走りに駆け抜けてゆく。きっと、異世界に呑まれ逃げ遅れた人たちなのだ。しかし、走らない人たちはどうなのだろう?濡れるままにゆっくりと歩く。異世界に呑まれたことを知らないのか、あるいは元よりこの世界の住人なのだろうか。

空は雲が覆い、薄暗く、雨音は心地よく街の喧騒を打ち消してくれる。カフェの中の豆を挽く音が、普段よりもクリアに聞こえる。読書をするにはうってつけで、時間の流れを忘れてしまう。

時計を見た。思ったよりも遅い時間だった。ぼくは傘を掴み、伝票を片手にレジに向かった。お金を払い、店を出ると雨足は少し弱くなっていた。そろそろ今日の異世界は幕が降りるかもな、と思いぼくは傘をささずに歩く。そしてまたぼくは日常に戻る。社ビルの自動ドアが開き、しずく取りで傘の水気を拭い、中にはいる。普段の憂鬱な月曜日だけれど、ほんの少しだけ気が軽い、そんな気がした。