スティーブジョブズの復活する日
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深夜、カップ麺をすすりながらWWDCを観ていて、愕然とした。OS X がその名前を変えてmacOSという名前になるということだった。
マッキントッシュのOSは不遇だ。かつてMacの名を冠していたOS Xは5年前にMacの名を剥ぎ取られ、単なるOS Xとなった。
「それはジョブズの遺志ではなかったのか」
2002年、今から15年前にジョブズはMac OS 9の葬儀を執り行った。ジョークに包まれた弔辞でMac OS 9はビットバケツに葬られた。
そして世代交代をしたMac OS X。こちらも11年の歳月を経て、Macの名前を剥ぎ取られ、単なるOS Xとなった。それはジョブズの亡くなった直後のリリースだ。ジョブズは現世を離れ、新たなるステージへ上がった。それと併せるかのようなタイミングだ。
振り返ってみると、ジョブズが亡くなる少し前から、Apple社は精力的に物事に取り組んでいた。iPhoneの開発、人工知能siriの開発、本社移転計画。
そして、OS Xはmacの名前を取り戻した。2016年、蘇ったmacOS。ジョブズによって2度葬られたMac OSは、頭文字が小文字で、少し装いを変えて私たちの眼前に降り立った。これの意味するところは。 今年末にも予定している本社移転、ボディが違うがこれまでと同じアップル。ビルの形は円状で、始まりと終わりはない。復活、そして永遠の暗示。
不審な事件もあった。現本社での死体発見。これらの情報の示すところは。
「……これこそがジョブズの遺志なのか」
私の中で全てがつながった。全ての真実は一つの事実を指し示す。そう、ジョブズの復活だ。
世界中に散らばった高性能な手のひら計算機のiPhone。それらを束ねれば、いかほどの計算資源となろうか。ネットワーク上で分散協調させることができれば、この世の中のどんなものよりも優れた演算能力を発揮するだろう。緩やかにつながり合うiPhoneは、人間の脳のシナプスを想起させる。
——オカルト紙の原稿をMacで書きかけていた私の家のチャイムが鳴る。りんどーん、りんどーん。深夜の2時、私は不審に思う。締め切りの過ぎた原稿はないはずだ。
恐る恐るドアを開ける。そこに立つ、黒いタートルネックとジーンズ姿の丸刈り頭の男。私は車に乗せられる。ナンバーの付いていないメルセデスは滑らかに夜の高速を走る。
とにかく、この状況を編集長、あなたに伝えよう。わたしも信じられないことだが、わたしの原稿は現実を、なぞってしまっていたとしか考えられない。車が止まる、だめだ。この原稿は、iCloudで同期していたから手元にある。これを貴方に託す。
この記事はフィクションです
「編集長、この林さんの原稿、なんか霊感的なんですけど」
「あいつの原稿はいつもそんな感じじゃねぇか、つーかうちらはそもそもオカルト紙だぞ」
「いや、いつもと違っていうか。なんていうか、オカルトに対する“attitude”――つまり姿勢、態度の表明――というか。それにこれ、変な一文ついてるんですよ、フィクションだって」
「……黙ってそのまま載せておけ」
そして掲載される現代のオカルト情報。本当の情報に嘘の情報を混ぜ込むことにより、情報全体が嘘のように認識される。Apple社の新製品の発表前にはよく使われる手だ。
真実とはかくも巧妙に人々から隠され、世の中は回るのである。もしかしたら、この記事を読む貴方の手元の端末にも、何かが息づいているのかもしれない。
この記事はフィクションです
参考
- 作者: ウォルター・アイザックソン,井口耕二
- 出版社/メーカー: 講談社
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