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「傷物語 Ⅱ 熱血編」はクールに滾る熱血アニメ

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キスショット様に会わなければ。そう、ぼくの中に流れる血が喚いた。

果たして、熱血編は素晴らしい出来であった。Ⅰの鉄血編と同様、スクリーンで見るべき音響、色彩、作画全てが揃った迫力の作品だ。

間延びした印象が強かった前作と比して、間がうまくコントロールされているためかテンポは前作よりも良く感じた。

rebuild-life.hatenablog.jp

雰囲気は相変わらず、古いフランス映画のよう。コントラストは抑えられ、落ち着いた独特のゆったりとした空気に支配されている。 一方で戦闘シーンは濃密で熱く、音楽と映像の勢いで感情を支配される。

全編よくできた実験映像みたいだった。音楽PVじみた、アーティスティックな映像ドラッグ作品。ただし、アッパーではなくてダウナー。 それでもエンターテイメントの範疇にとどまっているのは、驚くべきことだ。

フィルムの雰囲気

やはり、今回も前回同様「押井っぽいなぁ」と感じたところがある。 それはやはり、間、か。アニメ映画ではあまり表現されなかったこの間を取り入れているという点に、どのとなく同じ匂いを嗅ぎ取ってしまうのだと推察する *1

下のインタビューにもあるが、本作品は古いフランス映画を意識している。ゆったりと間が取られ、静のシーンが続く一方、戦闘シーンはとにかくよく動く。

sp.animatetimes.com

登場人物たちの掛け合いが魅力の維新作品ではあるが、その掛け合いの間に時間の経過などがうまく表現されている。緩急のついたその映像は、良い意味で1時間以上作品を見続けているような錯覚を覚えさせてくれる。

演出の効果

非現実的な日常世界

ひとつ、この作品の中で着目しておきたいのは日常と非日常の描き方が逆転していることだ。

テレビシリーズにおける物語シリーズでも同様であるが、物語の主要登場人物以外はすべて記号のように配置されている。走る車は同じ、建物もどれも廃墟のよう。空間には物語にかかわる人物たち以外に出てこない。異様な光景である。

一方、異形サイドの彼ら彼女らは、生き生きと描かれている。

これによって、視聴者の視点は異形サイドへ立たされる。日常の方が遠い世界で、異形のものたちの世界が身近な世界。どこか書割じみたシャフトの演出が、効果的に物語シリーズの世界観をうまく描き出している。

映像の質感

上記の演出にくわえ、「古きよきフランス映画」を意識した演出も趣深い。アニメという作り物で、実写映画という作り物をオマージュするという試み。これにより、前例のない不思議な質感を勝ち取っている。アニメ的でなく、実写とも違う。この不思議な感覚は、この作品だけの独特の味わいだ。

残念だった点

残念だった点は、上述のようなアーティスティックな雰囲気と食い合わせの悪い小話が少々あったところか。

掛け合いが魅力の原作、とぼけた小話が時々差し込まれるのは観ていて楽しい。 しかし、何度もなんどもパンツネタを引っ張るのはいい加減飽きるなぁというところ。

また、真面目な雰囲気になったと思ったら外す、という演出も多用される。ポイントで使われるからこそ効果的なのだが、多様されるのは少々興ざめだし、テンポが悪く感じてしまった。

真面目な話で貫くところと、とぼけるところは、もう少し工夫して欲しかった。

さいごに

撮影やアニメーターがのびのびと「実験作品」を商業でやっているような印象のこの作品。 高レベルでまとまっていて、ぜひ大きなスクリーンで質感を味わって欲しい作品だ。

*1:押井守は、映画に必要な時間をを「ダレ場」と称す。時間は、登場人物たちだけに流れるのではなく、世界にも流れるのだ。劇場版「エースをねらえ!」を観て、押井守はそれを認識したと言われる。出崎監督は「ダレ場じゃねぇ!」ってキレそうだけど(笑)