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立て直せ、人生。

人生行き当たりばったりなアラサーが、無事にアラフィフになれるように頑張らないブログ

映画『この世界の片隅に』の衝撃を言語化してみる(感想・レビュー)

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「あかんて、泣くわこんなん」

それが最初の一言。

コミカルで楽しく、時折笑い声が巻き起こる。そして、終盤はすすり泣く声も聞こえてくる。そして、エンディングロールが終わり明かりが灯るまで誰一人として席を立つことなく、しぜん客席から拍手が巻き起こった。

ぼくはこの作品の魅力を言語化してみようと思うが、心の中が掻き乱されてしまっていて、うまく言葉がでてこない。

ひとつ、言いたいのは、この映画はプロパガンダ的な反戦映画ではないってこと。 第二次世界大戦のさなか、人々はどんな風に生活を送っていたのか、どんな風に日常を繋ぎとめようとしていたのか。

youtu.be

少女「すず」が育ち、嫁ぎ、嫁いだ先での呉の街での生活。 人々の生活は確かにそこにあって、当時の日本の匂いが、建物の感触が伝わってくるのだ。

この作品、ぼくは一年前にクラウドファンディングの申し込みが終わった頃にその存在を知った。そして、監督のこだわりようと入れ込みっぷりを聞くにつけ、ぼくは観なければならないと、一年ほど待ち続け、ついに公開の日を迎えた。

舞台挨拶付きのチケットは手に入らなかったが、無事チケットをおさえて劇場へ。そして、ぼくは衝撃を受ける。今年の映画は傑作揃いであったが、観てから一晩明けても余韻が抜けないような体験をするのは、人生で初めてだ。ぶっちゃけ、魂が飛んでいったまま帰ってこない。

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どんな時代だって等身大の人たちが生きて、生きて、生き抜いて、そんな先の世界が今なんだな、平和って身近なんだと分からないものだなって思った瞬間、ぼくはこみ上げてくるものを抑えきれなかった。

今風に言うと「天然キャラ」で、庇護欲をかきたてられるような可愛らしい少女すずさん。そんなすずさんは、周りに流されるように結婚することになり、自分の人生が決まってゆく。今の感覚で言うと、不幸せに映るかもしれない。あるいは、当時からしてもそうだったのかもしれない *1

そんな頼りなかったすずさんだけれども、新しい家族たちと過ごすなか、自分の意思をはっきり持つようになる。「夢だとしても覚めたくない」と言い切る。

戦争が徐々に生活の中に忍び込んでゆく日常を、すずさんたちは懸命に生きる。どんなつらいことがあっても、笑って生きようとする。緻密に描かれた当時の日本のなかで、すずさんたちが「生活している」のを覗き見ると、ぼくらの生活と地続きのところに彼女たちの生活があったのだと感じ取られて、平凡で退屈な日常が、大切なものと思えてくる。

当時の生活

当時の日本の生活は、戦争抜きにしても現代の感覚とは異なる。 絵が上手く、どこか抜けてて「ほっとけない」すずさん。

そんなすずさんは、父が良い縁談だったから受けておいた、と幼い頃に会ったきりの男の人のところに嫁ぐこととなる。齢18。

広島から車で1時間弱の呉市での生活。どこか抜けている「本当に不束」なすずさんは、嫁ぎ先で四苦八苦しながら家事仕事をする。 そこに悲惨さはない。嫁いだ先で、家族として受け入れられ、すずさんも徐々に馴染んで行くさま、みんなで食卓を囲む姿はあたたかい。

前線にない一般の人々にとっては戦争はどこか遠く、少し離れた場所での出来事だったのかもしれない。

すずさんと、その周りの人々の魅力

とにかく日常ものなんだ、とぼくは言う。

少し遠い世界の戦争が、徐々に日常に忍び込んでくる。食べ物はなくなるし、赤紙で徴収される人もいるし、港には爆撃をくらう。 それでも人々は生活をする。「生きる活動」略して生活。

「あのエンジン音!あれを作るために、歩留まりを上げるために俺らは日夜働いているんだ!ついに2000馬力になったんだ!いっけぇ!」

バカスカと爆弾の破片が飛び散り地面に突っ伏しながらそんなことを言う工場勤めのお父さん。

「たくさんのご飯のように炊く方法を試してみました!」

「「おお!」」

減り行く配給を、様々に工夫して少しでも満足感を得られるように工夫するすずさん。

「敵機のエンジン音聞こえんからこんやろ。寝よ寝よ」

空襲警報が鳴り響くのが日常になるなか、防空壕に入らず布団に潜り込む家族。

当時を描く作品は、戦争の凄惨さそのものが描かれがちだが、この作品ではその中で生きた人々が描かれる。だからこそ、徐々に日常が戦争に侵食されてゆく様子をみるにつけ、胸が締め付けられ、終戦の日が近づくにつれて焦燥感でぼくは苛まれる。そして迎える日。

「ありがとう、この世界の片隅にうちを見つけてくれて」

夫の周作に向けられる言葉が、深く深く染み渡る。

さいごに

ぼくは、これまで「座右の映画は」と言われたら、とある映画を挙げていた*2。 しかし、この作品は見事にその座を奪っていってくれた。楽しく面白く、それなのに泣かされる……。この言葉にできない感情。様々な想いがない交ぜになって喉元までこみあげてくる。

実に、10年ぶりのマイベスト映画の更新だ。

この作品をこの世に生みだしてくれた、原作者のこうの史代さんと *3 片渕須直監督 *4 に、感謝をする。

本当に、この作品にであえて、ぼくはうれしい。

感想記事

今年、映画で泣いてばっかや……。

*1:作中でも、すずさんと対比させるように、先進的な義理の姉が出てくる

*2:ここでは名前を挙げない

*3:『夕凪の街 桜の国』をヒットさせ、その名前が知られるようになる。ただ、ぼくはまだ氏の作品を読んだことがなく、とりあえず1年間封印していた原作を、今読み始めるところだ

*4:名犬ラッシー、アリーテ姫、マイマイ新子と千年の魔法など、優しい作品を作る一方、BLACK LAGOONといったハードコアな作品も手がける。 BLACK LAGOONはドンパチな作品だが、びっくりするぐらい画面に説得力と迫力あって、テレビシリーズなのに超ハイクオリティ。なんでもござれな凄い監督なのである。