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読んでるとラリりそうなハード百合SF『最後にして最初のアイドル』が名状しがたい(レビュー・感想)

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「ハードSFでB級で、ラブライブ!の二次創作。しかも百合って聞いたら、どう思う?」

なんだこいつ (ヤク) でもキメてんのか?という言語明瞭意味不明であること甚だしい文なんだけど、 あるんだな、これが

「最後にして最初のアイドル」。それが、その作品名だ。 サイコーな百合作品、略してサイコ百合でもある。

第4回ハヤカワSFコンテスト《特別賞》受賞作であるこの作品、読み終えて一言「バカだ」。よくある帯のあおりの「問題作!」っていうのはあまり信用できないんだけど、こいつは確かに問題作だ。そりゃ選考会も荒れる。

この作品、どこを切り取ってもネタバレなってしまいそうだ。公式の書籍紹介の範囲にとどめ、本作品を紹介してみよう。

生後6ヶ月でアイドルオタクになった主人公、古月みか。宇宙一のアイドルを目指して、高校のアイドル部に入部し、新園眞織と出会う。

やる気にあふれる古月みかであるが、スキルがない。一方で、新園眞織は踊りもステップもすぐさま会得するが、アイドルには冷めた感情を抱く。二人は対象的であった。 そんな二人は、いつしか親友となる。

しかし、非情にも現実が古月みかの夢を砕いてしまう。

それから数年後、原因不明の巨大太陽フレアが発生し、人類は滅亡の危機に陥る。 そんな地獄の世界を生き抜く彼女たちの〈アイドル〉活動とは――。

著者自身は、この作品を 「実存主義的ワイドスクリーン百合バロックプロレタリアートアイドルハードSF」 と名付けている。

何を言っているのかわからないと思うが、ぼくも何を読んだのかわからなかった……頭がどうにかなりそうだった。 少なくとも書いたやつの頭はどうにかなっている。

だから、陳腐だが、こう囁くしかないのだ。

「最アイは……ヤバイぞ」

この作品は、ラブライブ!の二次創作が基となっているそうだ。 元々は「最後で最初の矢澤」というタイトルで、矢澤にこと、西木野真姫の「にこまき」二次創作だったんだそう。 なんとも 業が深い。 まあでも、元ネタを知らなくても存分に楽しめる。かくいうぼくも、ラブライブ!はほとんど視聴をしていない。

タイトルは「最後にして最初の人類」のオマージュ。1930年代の名作SFとして(一部では)大変有名。 この本は、国書刊行会からの2004年に出版された。国書刊行会というと、知っている人は知っているカルト的……というか、「ガチ・オカルト本」で有名な出版社。 「世界幻想文学体系」や魔術系の本などを出している。

この元ネタの組み合わせには、なかなかに、味わい深いものがある。

この作品の魅力

ハードSFとアイドルもの。この異色組み合わせで紡がれる、壮大な物語。

と思わせておいて、ぜんぶぶち込まれた何でもあり作品。 次々とめまぐるしく変わる展開、常識離れしたキャラクターの行動と考え。 けれどそのスピード感とリズムが心地よく、どうして読みすすめる手が止まらない。

読み進めるうちに、「気を違えているのはぼくの方ではないか……?」とすら感じ始めてしまう。 そして、最後には、 〈アイドル〉とはなんなのか —— その深遠なる問いに一つの回答が示される。

まとめると、とにかくメチャクチャで読む人の頭をおかしくして読後に踊りだしてしまうようなSFを書きたい。

『 最後にして最初のアイドル』草野原々、大いに語る(cakns) より

まさに、筆者のこの言葉どおりの作品。 ぜひ、手にとって読んで、ぼくと一緒に頭をおかしくして踊りだそう。 1時間ほどで読めるこの作品、しかも 130円ほど だ。これほどリーズナブルに、脳を揺さぶられる経験はそうそう味わえないだろう。

以下はネタバレ感想・レビュー

ネタバレ紹介

さて、ここからはネタバレを含む紹介をしたいと思う。ネタバレ避け勢はここでUターンをしてもらいたい。

ネタバレされる準備はオーケー?

ジェットコースターのように疾走する物語

主人公の少女は飛び降り自殺する。

まぁ、そんなくらいじゃ驚かないんだけど、もう一人のハードコアなレズ新園眞織が、古月みかを生き返らせようと常軌を逸した行動に出る。

ぶぢゅっ !ぐぢゅっ !ぐぎゅぎゅ! 新園眞織は更に力を入れる 。脳と一緒に 、脊髄神経までもが出てきた 。 まるで芋ほりだ 。脊髄神経には 、大小さまざまな血管がおまけとしてついてくる 。

なんともハートフル(hurtful: 痛みをもたらすの意)なシーンである。

それまでなんか、夢見る少女が夢破れてかわいそうだなぁ、っていう、比較的ごく普通のラノベを読んでいた気分だったのがこれである。 のけぞるわ。

そこから物語は急転直下である。突然太陽フレアが発生するし、人類は滅亡寸前になるし、新園眞織は「このままではあかん、科学力の発展に頼れないから自分がなんとかする!」と古月みかを復活させようとする。

死体の寄せ集めで。

「肉屋の廃棄物」と揶揄されるような、おぞましい存在として「よみがえった」古月みか。可愛らしいツインテールの面影もない。 新園眞織も、劣悪な環境下で生き残るために身体を改造していた。それは、古月みかに使うための技術を、自分の身体で検証することを兼ねてもいた。

そんな文字通り「人間離れ」してしまった二人は、宇宙一のアイドルを目指し、アイドル活動を進めてゆくのだ。

めまぐるしく変わってゆく環境。 それでも高校時代のアイドル活動の楽しさが忘れられずに宇宙一のアイドルを目指して、アイドル活動に勤しむその描写は、 完璧に狂っている

だが、それが良いのだ。読み終えた後は、心地よい酩酊感を覚える。そして、少ししてから、つい自分の周りを見渡してしまう。これは、そんなパワフルで心を……いや、脳を鷲掴みにしてくれる物語だ。

猛スピードで駆け抜けてゆくこの本に、是非みんなも酔ってほしい。

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