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【ネタバレあり】ポッピンQの残念さについて考えてみた(辛口感想・レビュー)

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2016年、最後のアニメ映画の期待作だった「ポッピンQ」。 東映アニメーション60周年記念とされたこの作品は、12/23、2016年に滑り込みの封切りとなった。

美麗な背景に可愛らしいキャラクター。プリキュアのEDのCGは年々進化をしているというが、本作品のCGは舌を巻くレベル。作画シーンとの繋ぎは驚くほどに自然だ。トゥーンレンダリングの技術の極致だろう。美しい音楽に乗った、ダンス中のカメラワークも魅力的で、劇場の音響で聞くと飲み込まれる。このためだけに観に行く価値はある。

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けれど、ぼくはこの映画を人には勧められない。 この映画は、一言で言うと「 出来の悪い総集編映画 」だ。褒めるところを探しながら観ることになるだろう。

設定も魅力的、キャラクターも立っていて、作画面なども先に挙げたとおり高レベルだ。しかし、ストーリーがぐずぐずなのだ。 終わった後は、どうしたら面白くできたのか何がダメだったのか……ついつい考えてしまう。

以下、作品を観ている前提で、ぼくのこの作品を観た時の気持ちをぶちまけてみる。

映画を観るつもりの人や、攻撃的な批評を好まない人は以下は読まないこと

あらすじ

それぞれ悩み抱えた5人の女の子達が、卒業式直前に異世界に突然飛ばされる。そこで言い渡される事実。時間を司る世界であるが、今は危機的な状況なのである。きみたちが拾ったカケラが、この世界を救う鍵となる。世界救わないと、元の世界にも戻れない。

彼らには、心を読み取れる「同位体」という生きたぬいぐるみみたいなヤツらがお供としてついてくる。そして言うのだ。ダンスをして世界を救うのだ、と。

かくして、その女の子たちには10日間の制限時間の中、ダンスを体得して、その力で敵をやっつけて世界を救うことになるのだった。

尺が足らない……以前の問題だ

尺が足りないのに間延びしたように感じてしまう……なんなんだ、この退屈なフィルムは。 オリジナル作品であるのに、全てのシーンが「どこかで観たことのある展開」ばかりだ。 あっと驚くような、独創的なストーリーが何一つ無いのである。

致命的な問題は何も無い。 青春映画として、必要そうな要素は全て入っているし、「なんか売れそう」っぽい要素は入っている。 青春、悩み、異世界。けれど、どれも生かせてない。

ご都合主義とも言えないような雑なストーリーは、「それっぽい」シーンとシーンを無理矢理繋ぐように描かれている。 一つ一つのシーンが協調しておらず、全体として歪で破綻した物語のように思われた。

テーマはなんやねん

誰だって悩みを抱えている。それに真摯に向かい合えば道は開ける。 分かりやすいテーマなはず。テーマなはずなんだよ……でも、全然これが伝わってこない。

それぞれ特徴が違う5人であれば、5人それぞれの悩みがある。 なんだけど、その悩みについてまともに描かれるのが主人公の伊純だけ。

他のキャラクターたちは、その悩みについて向き合う描写がないし、乗り越えるシーンだって描かれない。

え?なに?結局伊純以外は、どういう風に自分のトラウマや問題と折り合いつけて前向きになったの?なんか、いつの間にか「仲間出来たし、拗らせてた気分がすっきりしたわー」ってなってない???

おまえら何がきっかけで仲間になったんだよ

いきなり出会った5人が心を重ねていって、そしてダンスを成功させる——そんなストーリーを示そうとした雰囲気はあるんだけど、それが全然わかんない。

はじめのうちは、ダンスが全然息が合わなくて、「同位体」とか言われているぬいぐるみキャラクターに特訓させられてるシーンが描かれる。

こんなてんでバラバラの子ども達でも、仲間意識が芽生えて息が合っていく……みたいなシーンを期待するけど、一切無い。 行き詰まって、何か切っ掛けがあって、お互いわかり合えてゆく……みたいな話がないんだ。ないんだよ……なんでだ……なんでこいつら仲間意識芽生えてんだ……。

沙紀の心

口べたなダンスが得意な沙紀。ダンスをしよう!と伊純に声を掛けられても、ダンスをしようとしない。 けれど、実は元の世界でダンス仲間に裏切られたことがトラウマで、仲間と打ち解けるのに抵抗があるのだ……。

っていうのが、心を読み取ったパートナーの同位体に説明口調でベラベラと説明される。 おいおいおい、どうなんだよそれ。映像で示せ映像で。台詞で全部説明するならフィルムである必要ないでしょうが。

ラスボスなんやねん

本当に頭来たのが、ラスボス。さがしてた世界を救うかけらを集めた!と思ったら、そのかけらが消えてしまう。

長老は言う。「揃ったかけらは城に行ったのじゃ!それを触られると、何が起こるかわからないのじゃ!」

ほんと唐突だな!

そんなとき、なぜだか沙紀の姿は見当たらない。頑張って城に向かい、たどり着くとラスボス登場。 そこには、「沙紀の未来」を自称するメンヘラっぽい美人のねーちゃんが出てくる。 この世界を掌握する!つってて。そしていつの間にか沙紀は寝返ってそこに居る。

それまで影も形もなかったラスボスに、観客騒然。

え?今まで多々かってた敵と関係あるの?ないの? 主人公たちが「貴様〜!」って向かい合ってるから、敵なんだろう。

しかし、沙紀の未来ってどういうことなんだ?沙紀は未来にこの世界にやってきて世界を滅ぼそうとするの? それとも、自分と沙紀は似ているから、「あなたの将来が私なの」って比喩で言っているだけ???

沙紀は、仲間に裏切られたのをずっと引きずってたらそりゃあ病むわ。しかし、なんでこの時空に来られるようになったんだ?

疑問は尽きないが、まぁ尺の問題だから仕方ないとしよう。 説明不足も全部、続編のための伏線のつもりかもしれんし。

しかし、 葛藤を示唆するシーンくらい描いてよ って話だ。このテーマでそこを丁寧に描かずに、何を描くってんだ。

沙紀は仲間と打ち解けたように見えた。けれど、きっと何かに思い悩み、唆され、敵サイドに向かったのだ。 しかし、かつての仲間の伊純が攻撃を受けて苦しんでいる様子みて、改心する。

……そのまんま描かれるけど、なんで寝返ったのか?打ち解けたように見えて、なにが引っかかって打ち解けきれなかったのか?どういうところにつけ込まれてダークサイドに落ちかけたのか?

そこのあたり描かれないと、コロコロころころ行動変わってるだけにしか見えないよ……!

同位体の設定生かせよ

心を読めるケモぐるみっ子たち。たいへん可愛らしくてぎゅっと抱きしめたいんだけど、 心読める設定要らんやろ

肝心なところで心読めなくなったりするし、何も生かされていない。 最後に伊純が抱きついて「ありがとう」いうシーンでも、「突然何すんだ!」みたいなこと言っているけど、心読めてたんちゃうんかおまえら。

尺不足になるだろうこの作品で、むりやり話を短く纏めるための飛び道具として設定されたんだろう。 だけど、それをうまくストーリーの根幹に絡めてきて欲しかった。本筋に何も影響与えていないじゃん、この設定……。

キャッチコピーが映画見終わった後ですら意味分かんない

その世界には自分を知っている人がいた

結局このキャッチコピー何やったねん。 確かに、同位体が居て自分の心を読み取れる相手がいた。 けれど、「自分を知っている人」って言うにはあまりにも「そのまんま」過ぎないか。

心を読み取れる同位体が居て、だから何だったんだろうか。 その特殊能力で、世界を救うような行動が取れたわけでもなし。

いやまあ、本当にやりたかったのは分かる。 エンディングの後の動画を観れば、出会った少女たちだけでなく、同位体たちとの絆についても触れたいのだろう。なかなか表に出せない本音が、好もうと好まざるとに関わらず、全て伝わってしまう相手。そんな相手と戸惑いながら絆を深めてゆく。

でもちゃんと、同位体たちとの触れあい、葛藤、コミュニケーションってきちんと描かれていない。 だから、このキャッチコピーをみたときに「え、結局何が言いたかったのこのキャッチコピー」となってしまう。

最後に

とっちらかった批評になってしまったけれど、映画を観終わった直後のぼくの混乱した気持ちが表れている。

友人と2人で観に行ったのだけれども、「あまりにも酷すぎて混乱している」「つらい」 といった言葉をお互いに言い合って劇場をあとにしたのだった。

素材などは悪くないのに、どうしてこうなってしまったのか。

「高校生編ありきで作った設定を、頑張って辻褄合わせて一本の卒業編を作ってみました!」

とぼくは感じてしまう。 しかし、続編前提の前座作品としてみても、あまりにも雑な作りだ。

あれだけ設定を詰め込めば尺が足らなくなるのは目に見えている。 だからこそ、同位体などを導入して尺圧縮をしようとしたのだろうけど、映像の密度はすかすかで、単なる雑な総集編にしかみえない。入らなかったシーンを機械的に落としていったような、そんなぎこちなさがこの作品にはあった。

「絶対フィルムに収まらないよこれ!」そんな無茶なことに挑戦するのは評価する。けれど、それを実現するのに頭を捻って工夫されたことが感じられなかったし、監督がダンスシーンをやりたいがためにこんなフィルムになっているのではないか?と邪推してしまった。

残念ながら、ぼくはこの作品からは、「伝えたい相手に、伝えたいことをしっかりと差し出す」という誠実さが感じられなかった。展示とかみていたときは、そういうメッセージが前面に出た作品なのかなって思っていたんだけれど。

ちなみに、以下のダンスシーンは実際の映像にはないものとなります。 ダンス、よくできているんだけど、本編のストーリーと関係なくて、取って付けたようにしか思えない。流石にどうかと思うんよ。

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