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立て直せ、人生。

人生行き当たりばったりなアラサーが、無事にアラフィフになれるように頑張らないブログ

映画『夜は短し歩けよ乙女』感想〜映像に振り回される濃密な90分【ネタバレあり】

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大学生活ってのは、まるで長い長い一夜のようである。

一年があっという間の一夜のようであり、しかしどうしてその一夜は忘れがたく濃密で、長い長い一夜のように感じるのだ。

一見矛盾したこの感覚を、見事映像化してくれたのがこの作品である。

一言で言おう。傑作である。どこか古風で衒学的でユーモラスな森見作品を、どうしてここまで完璧に映像化できるのか?不思議に感じるほどの作品である。

しかし、森見作品を忠実になぞっているわけではない。むしろその逆だ。映像作品としては暴れ放題好き放題にやっているのだ。一見ビビットな色遣い、誇張された表現、下衆な表現に一歩踏み込んだ描写、抽象的な映像……アニメというより、実験的アート映像の連続のようなのである。

しかし、やはりこれはまごうことなき「夜は短し」であり、これ以上の映像化はないのだろうとぼくは思う。

監督は、奇才「湯浅監督」。四畳半神話体系でも森見作品の完膚なきまで完璧な映像化を成し遂げた映像作家であり、直近ではテレビシリーズ「ピンポン」なども好評を得ている。

本エントリは、この興奮したぼくの感情を一気呵成に書き立てたものである。

無論、 ネタバレ注意 である。森見作品において、ネタバレなどという概念があるのかは議論の余地があるかもしれないが。

あらすじ

クラブの「黒髪の乙女」に恋する「先輩」。

外堀を埋めることしかできない「先輩」は、『なるべく 彼女の 目にとまる』作戦、略して『ナカメ作戦』なる作戦を実行する。

春の京都の町、夏の古本市、秋の学園祭、そして冬が来て……。

個性的な仲間たちに囲まれ、珍事件に次々巻き込まれる2人はどこへと向かう?

ドラッグきめたような心地よい映像

電子ドラッグと揶揄される作品があるけれど、いやほんとうに、ヤクでも決めてんじゃねーかこの作品?って思うような、流れるような映像なのである。

一線級アニメーターが集まって、こぞって悪ふざけしてるような映像。誇張された動きは、相当にマンガチックで、けれどその動きはいちいちダイナミックで見ているだけで心地よい。

映像の心地よさを追求した、映像アート作品を連続させたら、あら不思議、一続きのストーリーになってるよ、というくらい、いちいち完成度の高い作品なのである。

脚本の妙

妙、というか妙ちくりんなのである。

もともと、原作では1年かけて描いた内容を、この作品では一晩で起きたこととしている。 春夏秋冬と、映像の中でもパートが分かれてるのに?よくわからない。そう、ぼくもよく分からない。

けれど、その圧縮感がスピード感とテンポを生み出し、濃密な映像を実現しているのだ。

たったの90分で一年分の物語を描ききっているのだが、120分映像作品を観たかのような心地よい疲労感、満足感に包まれる。それは、映像の圧倒的な情報量によるもの。それでも、詰め込み感を感じさせないのは、監督の手腕なのだろう。

なぜ一年が一晩に?

さて、原作から最も改変されている点といえば、ここだろう。

上述した通り、一年分の物語が一晩とされている。しかし、映像中は確かに四季がすぎ、一年分の物語が流れて行くのである。しかし、その季節の変わり目は曖昧で、気づくと季節が移ろっている、そんな気分にさせる。

これは、きっと「先輩」の主観なのだろう、とぼくは考える。映像中に、人によって時間の流れは違うのである、という表現があった。この「先輩」は、「黒髪の乙女」を一途に追いかけて、それ以外のことは頓着せず、気づくと季節が飛び去るような気持ちであったのだろう。

だってあの子は知らぬ間にどんどんと先を歩んでいってしまうから。置いてかれぬように必死で追いかけるだ。 それは、まるで一晩のようにあっという間なのだ。

けれどたくさんの出来事と思い出が詰まった長い長い一夜のようであるのだ。

一見矛盾している表現だけれど、人の主観なんてそんなもんだろう。まるで長い一晩のように感じた一年、それを短い映画、1時間半の映画で描ききる。濃密で2時間映画のように感じる。

うまいこと、メタ的な表現に成功しているなぁとぼくは感じた。狙ってかどうかは分からないけれど、「たまたま」が重なればそれは必然だ。湯浅監督は、それを狙って描く監督なのだとぼくは思う。

奇才・湯浅監督

やはり、この湯浅監督はとんでもない人間なのだと思うのだ。 狂気とポップさのバランス感覚が、とんでもなく鋭いのである。

本作では、ポップのなかに狂気をすこし散りばめている。綺麗に飾り付けただけの青春映画で終わらせず、大学生特有の俗世間離れした独特の雰囲気を出すことに成功していると感じる。

他の作品ではどうだろうか。

まる子ちゃん、クレヨンしんちゃん

映画ちびまる子ちゃん「わたしの好きな歌」では、可愛らしいキャラクターの世界観の中にサイケとも言える映像を持ち込んでいる。 クレヨンしんちゃんでは、古いものでは「ヘンダーランドの大冒険」のマカオとジョマとの迫力ある追いかけっこシーン、最近でも「ロボとーちゃん」の戦闘シーンなども担っている。

マインドゲーム

監督作「マインドゲーム」では、完全に狂気じみた悪ふざけの世界観の中に観客は放り込まれ、ジェットコースターのようにその映像に振り回され「なんかよくわからんけど心地よい映像だ」(しかしなんか観ちゃいけないものを観てしまった)というような感想を抱くに至るのである。

しかしその実、作品の世界をきちんと眺めてみると、きちんと秩序があり、メッセージがあり、二度、三度と観ると、大っぴらに描かれないストーリがみえてきて、何度も見返したくなるまさに「麻薬的映像作品」だったりするのだ。

さいごに

スクリーンに釘付けになるというか、目を離せないというか、そういった感覚を青春映画で味あわせてくれる作品は、そうそうないだろう。

それほどにまでに、この独特である世界に引き込まれ、ジェットコースターのように振り回され、それでも行き着く先を見届けたくなる。星野源さん、花澤香菜さんの演技もぴったりで、この二人以外に配役はあり得ないだろう、と感じるほどのものであった。

好き勝手作っていそうなのに、どうしてここまで綺麗にまとまってしまっているのか、不思議でたまらない。そんな感覚を、ぜひ劇場で味わってほしいものだとぼくは願う。

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