もう許して、って呻いた「ずっと前から好きでした。」感想・レビュー
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こんなに枕が欲しくなった映画は初めてだ。こんなに、枕に顔を埋めてジタバタしたくなる作品は初めてだ。上映中、変な声が出てしまうのを抑えるのに必死だった。
「ずっと前から好きでした。」は、幼馴染の瀬戸口優に片思いを続ける、榎本夏樹を中心に据えた、群像劇的作品だ。
映画の冒頭から、夏樹が優に告白するシーンで始まる。しかし、照れ隠しに夏樹は優に「告白の練習だから!」と誤魔化してしまう。それを、真に受けてしまった優。
居心地の良い幼馴染という関係に甘えてしまう夏樹。夏樹も優も、自分自身の気持ちに素直になれず、顔を覆いたくなるような、端からみれば好き合ってる2人が、どのような結末を迎えるか?が描かれる。 そして、彼らの周りの人間たちも年頃だ。それぞれの想いを抱き、行動を起こす。
先生は言う。
「青春ってのは、巻き戻しも編集もできないんだよ」
巻き戻せないから、編集できないから、皆後悔のないように必死になる。ぼくは、気づくとすべてのキャラクターを、応援していた。
群像劇的ストーリー
物語そのものは、ベタにベタを重ねたベッタベタの作品だ。けれど、それが積み重なれば特徴にもなる。
この作品は、群像劇だ。ストーリーの中心として、夏樹と優が据えられているが、実際に出てくるキャラクターはそれぞれに思いを抱く。他人を想う人を好きになってしまう人。誰かを好きになるという感情をまだ知らない人。片思いに逃げている人。
それぞれは、交友関係で、クラスメイトとして繋がる。それは、歯車が噛み合うようなものではなく、実際の高校生たちの交友関係をなぞるように、緩やかな繋がりだ。
その関係性の中、それぞれがお互いに影響を与え、影響を受け、行動を起こす。その一連の流れと決意は、どのキャラクターに対しても応援したくなる。
それぞれのキャラクターの魅力
素晴らしいことに、この作品のキャラクターはどれも魅力的だ。少なくとも、ぼくにとって嫌悪感を覚えるキャラクター、敵、みたいなのはいなかった。
たとえ、恋敵だとしても。それぞれに想いがあり、考えがあり、起きた物事を消化して前に進む。人生は一人一人が主人公なのだ。敵なんていうのはいない。
キャラクターは、全員かわいい。女の子は勿論、男の子も、男であるぼくが見ても魅力的であると思える*1。観客は、それぞれのキャラクターの本音を知ることができるが、だからこそ、その行動に対していかほどの覚悟があったのか?を感じることができる。
自分のことが、一番わからない
この作品を見ていて、やはり感じるのは、自分のことは自分が一番わからないということだ。観客から、他の人から見れば明らかなことが、不思議と本人たちにはわからない。 それは、きっと恋は盲目とかいうやつなのだろう。
だからこそ、周りからの支え、応援があって想いは成就する。人は一人で生きてないのだ。だから、恋の物語っていうのは、一面的な物語では閉じられないのだ。2人から好かれる人がいて、1人と成就する物語があれば、そうでない物語がもう一つある。それを描こうとすれば、群像劇にならざるを得ない。
この作品について
原作
この作品は、動画投稿サイトで人気に火がついた、クリエイター集団HoneyWorksの楽曲が原作だ。
だから、作品がまるでPVのように作られていたりする。テンポ良い音楽とともに映される映像は、それぞれのキャラクターたちの想いを鮮やかに描き出す。
劇中歌は本当に素晴らしかった。書き下ろし楽曲もあるようだし、早くサントラにまとめてほしい。買います。
作画、スタッフについて
以下は少しマニアックな感想
監督が柳沢テツヤ氏、キャラクターデザイン、総作画監督が藤井まき氏。ライブシーンなどにごとうじゅんじ氏などがいる。
柳沢氏は、ハイスクールDxDやダイダミラー、神無月の巫女の監督。藤井氏と柳沢氏はご夫婦で、柳沢氏の作品に藤井氏は総作監としてよく参加されている*2。
ごとうじゅんじ氏は、School Daysのキャラクターデザイン、総作画監督として有名。
アニメ制作スタジオのクレジットは、Qualia Animationとなっているが、スタッフはみなティー・エヌ・ケイ(TNK)のメンバーばかりだ。別ブランドとして立ち上げたと考えて良いのだろうか?
作画そのものは非常に美麗だ。撮影も素晴らしく、常にキラキラしていて劇場のスクリーンに映える。が、引いたシーンでは、少し不安を覚えるカットがあった。短い時間のカットであったので、まぁ割り切りなのかな?とも感じる。
作画監督補佐名義の人がたくさんいたのは、ライブシーンなどで担当を割ったからか、それとも作画監督修正を人海戦術で入れまくったからか……少し気になる。
さいごに
すばらしく、直球の青春映画だ。最近見たのが、花とアリス殺人事件だったり、こころが叫びたがってるんだ。だったり、すこし青春映画としては癖があるものばりだったからか、逆に不意打ちであった。
ものすごい脇に汗かいた。
1時間と短い作品であるが、非常に濃密な作品。ぜひ、のたうち回りたくなるのを、声を押し殺して我慢する経験をしてほしい。