立て直せ、人生。

人生行き当たりばったりなアラサーが、無事にアラフィフになれるように頑張らないブログ

コインランドリーは人生の交差点

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毛布を抱えて外に出た。冬、かさばる毛布たちを洗うには、自宅の洗濯機では力不足だからである。以前、無理矢理に洗ったところ、破けて決まった苦い記憶がある。

コインランドリーが好きだ。そこは、人生の交差点だから。両替機のないコインランドリーにぶつくさ言いながら、外の自販機で缶コーヒーを買って洗い終わるのを待つ。文庫本を持って行くと良い。スマートフォンだと、少々据わりが悪い。すると、次々と様々な出で立ちの、年齢の、性別の人たちがやってくる。

お婆さんは、よろよろと抱えて乾燥機のハンドルに手をかけて一息をついて、衣類を放り込む。外を見ると、年季の入ったママチャリがとまっている。この辺りには、住宅はまばらだし、家は遠いのかもしれない。自転車でどの程度の距離を走ってきたのだろう?

次に来たのは、身なりの整ったサラリーマン風の男性。バスケットに衣類をこんもり入れて、キョロキョロとしている。きっと、休日のお使いなのだろう。仕事ができそうで、凛とした空気を纏っている。役職持ちなのではないか。しかし、真新しく白いセーターを着て、慣れない様子でわたわたとしている姿は、どこか可愛らしい。駐車場の白いセダンからは小学生低学年くらいの、可愛らしい女の子が降りてきて、「パパこっちだってー!もー」と叱っている。

その後ろからは、ビビットな色に髪を染めた、しかしイケメンの男性ホスト風の男性が、気だるげにビニール袋を抱えて入店する。ビニール袋の持ち手が伸びきって細くなり「ってぇ……ねむ……」などと言っている。

漫画みたいに、ネギをビニール袋からはみ出して持ち歩くおばさまの来店。荷物を抱えて入ってきたものの、洗濯乾燥機が全て埋まっていて舌打ちをして帰って行く定年間近くらいの男性。色とりどりの、大量のタオルをたたみ続ける中年夫婦。

こんなにも様々な人が住んでいるのに、ぼくは多分それらを見過ごしている。いや、見ていても気づいていないのだな、と思う。缶コーヒーを傾ける。少々本に夢中になりすぎてて、缶コーヒーが冷めてしまっている。

ピッと電子音が響き、ぼくが使う洗濯機が止まる。乾燥機に詰め直そうと椅子を立つぼくよりも早く、おばさまが素早く駆け寄って毛布をカゴに出しはじめた。ぼくは柔らかくそれを諌める。おばさまは「全部埋まっていて焦っちゃったわおほほほほほ」と独特の甲高い鳴き声をあげて席に戻る。

乾燥機は、電気と時間をお金に変換する装置だ。その副産物として服が乾く。ボタンを押し、幾枚かのコインを投入し、しばし考え、延長のお金を投入しようとしたところ、声をかけられた。「にーちゃん勿体無いで!どんなけいれるん?」関東なのにネイティヴ関西弁が飛び出すそのおばさまは、細身でピンク色の服を着ている。くるくると巻いている髪の毛は天パーなのかなんなのか……そんなことを考えていると、おばさまは投入金額の表示を指差す。

「こんなに入れでもええ。すぐ乾く」

ぼくが文字に記すと、名古屋弁に近いエセ関西弁になってしまうが、流暢に関西弁を話すおばさまは、どうやらコインランドリーの目安時間は長すぎるから短くでいい、どれだけコインを入れるんだこいつは、と心配してみていてくれたらしい。

「お金は大事にせなあかん。勿体ない」

それはその通りである。ぼくは首肯してお金の投入を辞めた。

なんの仕事しとるん?東京か?ええなぁ、そんな他愛もないやり取りをして、勿体ないおばさんは洗濯物をたたんでほな、と自転車に乗り込む。ぼくは感謝の言葉を伝えて見送る。そしてしばらく本を読み進め、乾燥機が止まり、生乾きであることを確認した上で、コインを追加する。いつのまにか誰もいなくなったコインランドリーに、乾燥機がコインを飲み込む音が響く。

しばらくして乾燥機が止まり、今度こそ乾いたことを確認して取り出し、車に詰め込む。来た時よりも幾分か寒いような気がする。クラッチを踏んでキーを回す。エンジンのかかりもすこし渋い。無機質な流れる車をみて、それでもその中にはそれぞれの人生が詰まっているのだな、などと月並みなことを考え、苦笑してからギアを入れ、車を発進させた。

(所要時間30分、コインランドリーにて)